東京地方裁判所 平成11年(ワ)4876号 判決
原告 永倉信雄
右訴訟代理人弁護士 阿部正博
被告 佐藤不動産有限会社
右代表者代表取締役 佐藤明弘
右訴訟代理人弁護士 吉田康
同 佐原專二
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金四三五〇万円及びこれに対する平成三年一一月一日から日歩八銭二厘の割合による金員を支払え。
第二事案の概要等
一 本件は、原告と被告とが以下のような準消費貸借契約(以下「本件準消費貸借契約」という。)を締結したとして、原告が被告に対し、右契約に基づき、債務の支払を請求するものである。
1 原告が代表取締役を務める株式会社有信(現在の商号は有信通商株式会社。以下「有信」という。)と原告は、佐藤博道(以下「博道」という。)が代表取締役を務める東観興業株式会社(以下「東観興業」という。)に対し、昭和五一年八月一五日までに、合計五〇八三万九〇〇〇円を貸し付けた。
2 前項の債務の支払につき、博道は、連帯保証した(以下「旧債務一」という。)。
3 原告は、博道に対し、以下の通り、貸し付けた(以下「旧債務二」という。)。
(一) 昭和五〇年八月二〇日 金一〇〇〇万円
(二) 同年八月二九日 金一〇〇万円
(三) 同年一二月二日 金九五〇万円
(四) 昭和五二年八月五日 金三〇一万五〇〇〇円
合計 金二三五一万五〇〇〇円
4 原告(有信代表者兼個人)と博道(被告代表者兼個人)は、平成二年一〇月五日、以下のとおり合意した。
(一) 博道は、2項の債務のうち金二〇〇〇万円、3項の債務のうち金二三五〇万円の合計四三五〇万円については支払義務を負うことを認め、原告及び有信は、右を超える部分については、その支払を免除する。
(二) 有信は原告に1に係る債権を譲渡し、被告は博道が負う右金四三五〇万円の債務につき債務引受けをする。そして、右債務引受けをした債務を準消費貸借契約の目的とし、これを以下のとおり支払う。
<1> 平成三年から平成六年まで毎年一〇月末日限り各金一〇〇〇万円ずつ
<2> 平成七年一〇月末日限り金三五〇万円
<3> ただし、分割金の支払を一回でも怠ったときは当然に期限の利益を失い、残金及びこれに対する支払済みまで日歩八銭二厘の割合による損害金を支払う。
二 争いのない事実等
1 博道は、昭和四九年当時、東観興業及び被告の代表取締役であったし、原告は有信の代表取締役である。
2 被告は、本件準消費貸借契約に基づく債務について一回も弁済していない。
三 争点
1 原告と被告との間で本件準消費貸借契約の合意が成立したか。
(被告の主張)
被告が本件準消費貸借契約を締結した事実はない(なお、原告の主張する旧債務なるものは、いずれも商人が営業のためにする行為により生じたものであるから、本件準消費貸借契約締結当時既に時効により消滅していたものであり、わざわざそれを目的として準消費貸借契約を締結することは不自然である。)。
2 旧債務一、二は存在しないか。
(被告の主張)
これらの貸付けがされたと主張される当時、原告は無資力であったのに対し、博道は資産家であったこと、また、貸付先とされる東観興業は倒産寸前であったことなどの事情からして、原告の主張するような貸付けはされていない。
3 本件準消費貸借契約は通謀虚偽表示によるものか。
(被告の主張)
博道と原告とは、博道側のよからぬ資金使途を隠蔽する目的で、あるいは博道側ないし原告側の節税対策の目的で、あるいは原告の資力を仮装する目的で、通謀して、準消費貸借契約を仮装したものである。
4 本件請求債権は時効により消滅しているか。
(被告の主張)
本件準消費貸借契約は商行為の性質を帯びているところ、原告の主張によれば、被告は、平成三年一〇月末日の第一回の分割債務の支払を怠ったことにより当然に期限の利益を喪失したことになる。そして、右時点から本訴提起(平成一一年三月四日)までに既に五年以上が経過している。したがって、被告は、消滅時効を援用する。なお、被告が原告主張のような債務の承認をした事実はない。
(原告の主張)
(一) 旧債務一は、博道が東観興業のため連帯保証したものであって、被告と全く関係のない目的、原因による債務負担であり、これにより被告が経済的利益を得たことはない。また、旧債務二についても、博道個人の支払金捻出のためのものが含まれる。したがって、旧債務一、二ともに商行為により生じたものであるとはいえない。それと同一性を有する本件準消費貸契約に基づく債務も商事債務に当たらず、その時効期間は一〇年と解するべきである。
(二) 以下の事実があるから、被告は、本件準消費貸借契約に基づく債務を承認したというべきで、時効は中断した。すなわち、原告は、被告代表者博道から、平成七年一一月一四日、伊東市宇佐美字桜山の山林を一八二一万円で買い受けたが、原告と被告は、右代金の支払については、これを本件準消費貸借契約に基づく債務と対当額で相殺し、残った本件準消費貸借契約に基づく債務は三箇月後に弁済するという合意をし、同時にこの合意についていわゆる起訴前の和解の手続をとることに合意した。
第三争点に対する判断
一 まず、争点4(本件請求債権の時効消滅の有無)について判断する。
1 準消費貸借契約に基づく債権が商行為により生じた債権として商法五二二条が適用されるか否かは、旧債務が民事債務か商事債務かに関わらず、当該準消費貸借契約の性質によって決すべき問題である(大審院昭和八年六月一三日判決・民集一二・一四八四参照)。ところで、本件準消費貸借契約は、有限会社(商人)である被告が一方当事者として締結したものであるから、その営業のためにしたものとして、商行為性を帯びるというべきである(会社には個人のような私生活は存在しないのであって、会社の行為はすべて営業のためのものというべきである。)。したがって、本件請求債権の時効については商行為により生じた債権として商法五二二条が適用されるというべきである。
そして、被告が本件準消費貸借契約に基づく平成三年一〇月末日の第一回の分割債務の支払を怠っていることは当事者間に争いがないところ、本件準消費貸借契約には、分割債務の支払を一回でも怠ったときは当然に期限の利益を失う旨の条項が付されていたというのである(これは原告の自認するところである。)から、被告は、平成三年一〇月末日の時点で当然に期限の利益を喪失し、債務全額を一時に支払うべきことになったというべきである。したがって、消滅時効は、右時点から進行することになる。ところで、本件訴えが提起されたのは平成一一年三月四日であるから、本件訴えの提起前に商法五二二条所定の五年間が経過していることは明らかである。
2 ところで、原告は、被告が、平成七年一一月一四日、本件準消費貸借契約に基づく債務につき債務の承認をしたと主張し、その証拠として甲第二二、第二三号証(早川良子の陳述書)を提出し、証人早川良子の証言を援用する。このうち甲第二二号証は、被告が弁護士に本件準消費貸借に基づく債務について起訴前の和解手続をとることを委任する内容の委任状であり、作成日付けが平成七年一一月一四日となっている。しかし、右委任状には印紙が貼用されており、また、委任先の弁護士事務所の電話番号の局番が三桁で記載されていることが認められるところ、このような文書については平成元年四月一日以降印紙の貼用が不要になっているし、電話番号の局番は平成三年一月一日以降四桁に変わっているのである(いずれも公知の事実である。)。また、委任先とされた弁護士は平成七年ころにそのような起訴前の和解手続をとることの依頼を受けた事実を否定している(乙第四六号証)。このような点を考えると、甲第二二号証が作成日付けのころに作成されたものであると認めることはできないというべきである。右の点に関する甲第二三号証及び証人早川良子の供述は信用できない(証人早川良子の証言によると、印紙を貼用したのは同人であるが、同人は、昭和五三年から勤務している事務のベテランであり、弁護士への委任状の作成に何度も関わったことがあることが認められるのであり、このような者が平成七年になって貼る必要のない印紙を誤って貼るということは考え難いというべきである。)。そして、他に原告が平成七年一一月一四日債務の承認をしたとの事実を裏付ける証拠はない。
二 そうすると、仮に本件準消費貸借契約が有効に成立し、その効力を有しているとしても、消滅時効が完成していることになるから、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求は理由がないことになる。
三 結論
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 大坪丘)